最近チラホラと目にするようになった ExpressLRS という文字列。ExpressLRSは驚くほどのロングレンジと低遅延を両立させた新しいRCプロトコルです。
今までに発売されていた各種のRCプロトコルを使用した製品には無い、驚愕のパフォーマンスを備えているExpressLRSとはいったいどういうものなのか?またそのすごさはどれほどの物なのかを解説していきます。
ExpressLRSの導入ガイドはこちらにあります。
更新:2021年12月31日 ExpressLRS V2.0の新機能を追記、技適製品を追記
RCプロトコルとは
ここで言うRCプロトコルとは、ラジオコントロールの送信機と受信機がお互いに電波で通信する手順(決めごと)の事です。
一般的にドローンを操縦するには以下の手順となります。
- 送信機のスティックの移動量をデジタル信号にする。
- デジタル信号を通信手順1の形式で送信モジュールへ送る。
- 送信モジュールから通信手順2の形式で電波を発信する。
- 受信機は送信機からの電波を受信して通信手順3の形式でフライトコントローラーへ送る。
通信手順1はPPM、SBUS、UARTなどがあります。
通信手順2がRCプロトコルになります。
通信手順3にはSBUSやF.Prot、CRSF、IBUS、DSMなどがあります。
ExpressLRSの特徴
ExpressLRSは、遅延と通信距離の両方で可能な限り最高のリンクパフォーマンスを実現することを目的としています。
これは、最適化されデータ量を削減したパケット構造で実現されています。これにより、ExpressLRSは、市場の他の製品を比較して、非常に優れた遅延と通信距離を実現できます。
通信パケットの最適化
遅延を減らすためには高速でデータを送受信しなくてはいけません。ExpressLRSはデータ量を減らすことによって送信速度を上げています。
例えば、1~4ch(ロール、ピッチ、ヨー、スロットル)はフル解像度のデータ量だが、5ch以降は減らしています。5chのみアーム専用のチャンネルで、毎パケットごとに送信しますが、1ビットしかありませんので、2ポジションスイッチになります。6ch~以降は必要なときだけ送信することによってデータ量を削減しています。
テレメトリーも毎回送受信せず、間隔を開けることでデータ量を削減しています。
長距離通信が可能
ExpressLRSは比較的新しいLoRa変調という技術を使用します。LoRaとは、LongRange(長距離)の略で、微弱な信号でも通信ができ、低消費電力で長距離通信が可能です。専用のチップが用意されていますので、そのチップが搭載されている送信機と受信機で使用できます。
ロングレンジの略だなんて期待が持てますね。
通信距離は、見通しの良い環境であれば数10km程度、市街地レベルでも数km程度の通信が可能です。微弱な電波であっても受信が可能で、他の通信方式では通信が困難な場所での通信も実現可能です。
ExpressLRSを使用した実際のロングレンジ動画(別タブでYoutubeが開きます)
2.4GHz 出力100mW パケットレート250Hzで距離35Km https://youtu.be/dBmTRhgVcyY
2.4GHz 出力 10mw パケットレート500Hzで距離10Km https://youtu.be/IpiPEZrCGtg
セラミックアンテナでも
2.4Ghz 出力100mW パケットレート500Hzで距離3Km https://youtu.be/kfa6ugX46n8
こちらはExpressLRS内蔵FCを搭載したHappymodel Crux3にリチウムイオン18650を使った1Sロングレンジ機で距離3.5Km https://youtu.be/bSM4ypPrSB4
なお市販品でLoRa変調を使用しているのは、FrSky R9シリーズ、TBSトレーサー、ImmersionRCのゴースト、SIYI FM30などがあります。
900MHz帯と2.4GHz帯の2種類の周波数で使用できる
EExpressLRSは各国で免許が要らないISMバンドで使用できるようになっています。TBSクロスファイヤーが使用する長距離用の915MHzと、一般の送信機で使用している2.4GHzの両方に対応しています。
日本ではサブギガ帯のISMバンドは920MHzから上なので915MHzは使用できません。もちろんTBSクロスファイアーも使用できません。
低遅延である
ExpressLRSは現在市販されているどの送信モジュールよりも高速なパケットレートが使用できます。2.4GHzでは最高500Hzで、同じLoRaを使用しているTBSトレーサー(250Hz)、ImmersionRCのゴースト(220Hz)よりはるかに高速なため遅延が最小です。
ExpressLRSはパケットレートを変更できるので、フライトシーンに合わせて好みの設定ができます。レース機では通信距離より低遅延を優先したり、ロングレンジ機では通信距離を優先したりできます。
下図ではLink Speedが低くなるとRX Sensitivity(感度)が上昇しています。またトレーサー、ゴーストと同じ感度でも倍のLink Speedになっていることが分かります。
既存の製品に導入できる
ExpressLRSは、Semtech社製のSX127xまたはSX1280チップを搭載している送信機や受信機にファームウェアを書き込んで使用できます。
2.4GHzではImmersionRC ゴースト、SIYI FM30、Namimno、そしてHappymodelのExpressLRS製品が使用可能です。それぞれの対応受信機にもファームウェアを書き込みます。
テレメトリーをサポート
ExpressLRSは開発当初テレメトリーをサポートしていませんでしたが、現在はフルテレメトリーをサポートしています。ただし、一回に送信できるパケットサイズに制限があるため、毎回テレメトリーデータを送信するのではなく、数パケットに1回送信など必要に応じて送信頻度を設定できます。テレメトリーはそんなに高速で更新する必要が無いので、例えば0.5秒おきの更新なら、パケットレート500Hzの時に、パケット100回の内テレメトリーが送信されるのは1回だけでも十分になります。
パスフレーズバインドが使用できる
送信機と受信機に同じパスフレーズが設定してあるとバインドは自動で行われます。バインドボタンを押したりすること無くただ電源を入れるだけですのでとても楽ちんです。
ただし、同時に電源を入れれるのは一つの受信機のみです。
パスフレーズはファームウェアの書き込み時に行われます。
クロスファイヤーショットで低遅延と滑らかな操作フィール
ExpressLRSではクロスファイヤーショット(以降:CRSFShot)、別名 MixerSyncを使用して、Open-TXから送信モジュール、さらに受信器からFCまで、信号のやり取りが同期している。
通常はOpen-TXと送信モジュールの間は同期されていないので、Open-TXから送信モジュールへ次の信号が届かないと待ちが発生してしまい遅延が出ます。
CRSFShotを利用すると、FCに入力されるRCコマンドも規則正しく入って来るのでPID制御の正確性が増します。
通常のRCコマンドはかなり汚れたデータです。Betaflightではその汚れたデータをいかに有効なデータにして使用するかの工夫がたくさんありますが、ExpressLRSとCRSFShotを使用することによって、RCコマンドが滑らかになり、遅延も減ります。
CRSFShotはOpen-TX2.3.12以降から使用できます。
Happymodel製品は超小型の受信機や組み込みのFCなどが魅力的
初めからExpressLRSを使用した製品も発売されました。Happymodelでは900Hzと2.4GHzの両方の製品があります。
送信モジュールは送信機の拡張ベイ(JRベイ)に装着できるタイプで、ライトタイプ送信機用のスリムタイプもあります。
受信機は超小型でセラミックアンテナを搭載している製品もあり、外部アンテナが不要になっています。大きさは1cm角で重さはわずか0.44gです。下記写真右側がセラミックアンテナを搭載した受信機。
HappymodelのExpressLRS受信機内蔵FC。右側に四角いセラミックアンテナが見える。VTXも搭載したフープ用のFCです。現在開発中のBetaflight4.3から使用できます。
Happymodel以外でもExpressLRS搭載製品は各メーカーが開発中です。iFlightはもうすぐ発売するとアナウンスしています。
Bluetooth搭載の送信モジュールなら無線ジョイスティックとして使える
送信モジュールにBluetoothを搭載した製品なら、パソコンのBluetoothと接続して、シミュレーター用のジョイスティックとして送信機が使用できます。
いままではUSBケーブルを接続して行うか、受信機を利用した無線ドングルを購入してワイヤレスで行えましたが、ExpressLRSなら何も用意すること無くワイヤレスでシミュレーターが使用できます。
(追記:2021年12月31日)
送信機のExpressLRSスクリプトからVTXをコントロールできる
ExpressLRSのluaスクリプトから、受信機にVTXのコントロール信号を送出できます。
毎回バインドするごとに設定したバンド・チャンネルや出力を送信します。ExpressLRSのバインディングフレーズを利用した自動バインドなら、接続する全ての受信機に送信するので全ての機体のVTXを統一できます。
(追記:2021年12月31日)
送信出力の動的切り替えでバッテリーを節約
ExpressLRS V2.0より、送信モジュールの送信出力を動的に切り替えるオプションが追加されました。
テレメトリーにより帰って来る受信機の受信状況により送信出力を変化させます。信号強度が弱くなると設定した最大出力まで徐々に出力を上げていきます。
(追記:2021年12月31日)
ExpressLRSを使用する
ここまでExpressLRSの良い所を見てきました。もはやこれ以外に選択肢は無いような魅力ある内容ばかりです。いままでは、数百メートルでRXLOSSしてクラッシュしたりしてましたが、もうびくびくしながら飛ばすこともなくなりそうですね。
遠くの自分が行けないところへ飛んで行って撮影するロングレンジフライトはExpressLRSの広大な通信距離は大変魅力的です。レース機でもExpressLRSとCRSFShotの低遅延は有用ですよね。
ではExpressLRSはどうやって導入したらいいのでしょうか?
ExpressLRSの2.4GHzは免許不要のISMバンドですので日本で使用できそうですよね。技適があれば問題無しです。
そうです。技適があれば問題無し。しかし技適がある製品はまだ存在しません。
なんてこった。。。
HappymodelがExpressLRS送信モジュールの技適を取得してくれると大変ありがたいのですが、そもそもFCCさえ取れていない製品なので現時点では非常に難しい状況です。ゴーストやSIYI FM30など、他の製品にExpressLRSを入れて使用するにも、技適のある製品自体がありません。
これだけの魅力があるRCプロトコル、どこか国内企業が送信モジュールを作成、技適取得をしてくれないものでしょうか?もし技適品が発売されたらフタバからの乗り換えも大いにありうるでしょう。フタバが窮地に追い込まれそう。いやいっそのことフタバがOpen-TXでExpressLRS製品を出したら(略
現在の技適品が無い状況では使用できません。残念です。
ExpressLRSの導入ガイドはこちらにあります。